「B2B Studio」は、異なる都市にいるDJが、それぞれ自分のレコード(音源)を持ち寄って、リアルタイムに1つのセットをプレイできるサービスです。
ブラウザ上に再現されたCDJやDJMのような機材で、バック・トゥ・バック(B2B)を遠隔で楽しめます。どのような仕組みなのか、どういう位置づけのサービスなのか、日本からでも使えるのかを整理します。
B2B Studioとはどんなサービスか
B2B Studioは、2人から4人のDJが別々の場所から同じブースに入り、1つのセットを一緒にプレイするためのサービスです。バック・トゥ・バックは、同じ場所で顔を合わせて行うのが前提のスタイルでしたが、それを遠隔でも成立させようというのがこのサービスの狙いです。
利用はパソコンのブラウザ(MacまたはWindows)が基本で、MacとWindows向けのデスクトップアプリも用意されています。なお、オーディエンスとしてはブラウザからも参加できますが、DJプレイに参加するにはデスクトップアプリが必要となります。
サイトには「beta(ベータ版)」と表示されており、現在も開発途上のサービスと考えておくとよさそうです。
「ストリーミングではない」というのが最大の特徴です
遠隔でDJをすると聞くと、相手のミックスを配信で受け取る方式を想像しがちですが、B2B Studioはそうではありません。
部屋にいる全員のコンピューターが、自分の曲も相手の曲も含めてセット全体を、それぞれ自分のマシン上で、共通のクロック(時計)に合わせて再生する仕組みです。
曲は再生前に全員のブースへ届き、ブース側には保存されません。フェーダーの操作、キューやループといった動作は全員の画面に同時に反映され、SYNCボタンを押せば、すべてのマシンで同時にテンポが合います。音声を送り合うのではなく、操作と曲データを共有して各自が再生するため、距離による音質の劣化は起きないというのが公式の説明です。
セッションの流れ
- ルームを開く:ホストがルームを作り、最大4人のDJを席に着かせます。2デッキ構成と4デッキ構成があり、それ以外の参加者はリスナーとして聴く形になります。
- 各自が自分の曲を読み込む:USBメモリを挿すか、手元のライブラリを開いて曲を読み込みます。
- 同じブースにいるようにミックスする:ホットキュー、ループ、ビートジャンプ、エフェクトが全員に同じタイミングで反映されます。
- 観客が見守る:公開ルームには、スマートフォンで開ける観覧ページが用意されます。音楽に合わせて動くデスクの表示、DJの声やカメラ映像、チャットを楽しめます。
ホスト側のDJ同士は、ボタンを押している間だけ話せる「プッシュ・トゥ・トーク」で会話でき、ジョグホイール上にカメラ映像を表示することもできます。お手持ちのMIDIコントローラーも、画面上のコントロールをクリックして実機のつまみを動かすだけでマッピングできるとされています。
再現されている機材
ブース内のユニットは、いずれも実在する機材をモデルにしたエミュレーションです。つまみやフェーダーの挙動、カーブまで本物に近づけているとされています。
| ユニット名 | モデルとなった機材 | 概要 |
|---|---|---|
| P2P-3000X | CDJ-3000X | クラブ標準のプレーヤー。タッチスクリーン、ホットキュー、メモリーキュー、ループ、ビートジャンプなどを再現します |
| BJM-V11 | DJM-V10-LF | 6チャンネルのフラッグシップミキサー。4バンドEQ、フィルター、アイソレーター、13種類のビートエフェクトを備えます |
| BONE:69 | Xone:96 | アナログ系のクラブミキサーEQキル、2系統のフィルター、CRUNCHなどを再現します |
| LineTime | Strymon TimeLine | センドループに挿せるビート同期のディレイ |
| SkyBig | Strymon BigSky | もう一方のセンドループに挿せるビート同期のリバーブ |
スタート画面では、このほかに「P2P MODEL 1」というミキサーも選べる表示があり、PLAYdifferentlyのMODEL 1を模したものと案内されています。各ユニットの「i」ボタンからは、元になった実機の販売先へ移動できるようになっています。
rekordboxのUSBやライブラリも読み込める
rekordboxで書き出したUSBメモリを挿すと、プレーヤーと同じようにプレイリスト、タグリスト、ホットキュー、メモリーキュー、ビートグリッド、カラー、キーなどを読み取ります。rekordbox XMLや、ファイルを入れたフォルダでも同様に扱えます。未解析の曲は、読み込み時にテンポ、ビートグリッド、キー、波形が解析されます。対応する音声形式は、MP3、AAC、WAV、AIFF、FLAC、OGGです。
音の処理は各自のマシン上で、32ビット浮動小数点、お使いのオーディオインターフェースのサンプルレートで行われます。オーディオバッファは6〜32ミリ秒の範囲で、起動のたびにマシンに合わせて設定されます。キュー出力を別のヘッドホン系統に分けたり、マスター出力をWAVまたはMP3として録音したりすることも可能です。
なお、ブラウザ版ではUSBドライブはChromeで開けますが、rekordboxのライブラリ読み込みはデスクトップアプリのみの対応です。アプリには、同じネットワーク上のPro DJ Linkプレーヤーを認識する機能もあります。
再生された曲には購入リンクが付く
リリース済みの曲が再生されると、ブースがウェブ上で自動的に検索を行い、DJにも観客にも「BUY TRACK」のボタンを表示します。ダウンロードはBeatport、Bandcamp、Apple Music、レコードはDiscogs、Juno Records、Hard Wax、deejay.deなど、試聴はYouTubeやDeezerといった具合です。確実に同じ曲だと判断できる場合にだけリンクが出る設計だそうで、「この曲のIDは?」と尋ねなくて済むのは、観る側にとってもうれしい工夫です。
観覧用には、AndroidとiPhone向けの無料アプリも公開されています。配信中のセッション一覧から、ライブのミックスを聴き、デスクの動きを見られる内容です。DJとしてプレイする場合は、アプリではなくパソコンからサイトにアクセスする必要があります。
どういう位置づけのサービスなのか
公式サイトは、B2B Studioを「練習とトレーニングのためのツール」と明確に位置づけています。ミックスの学習、リハーサル、機材の挙動の研究、そして自宅から友人とバック・トゥ・バックをすることが用途で、プロ向けの機材ではなく、クラブなど会場でのライブ演奏や、故障が許されない場面を想定した製品でもないと、規約・サイト双方で繰り返し述べています。
B2B Studioは、AlphaTheta(Pioneer DJ)、Allen & Heath、Strymonとは提携しておらず、これらのメーカーに承認されたものでもありません。CDJ、DJM、rekordbox、Xone、BigSky、TimeLineなどの名称は各社の商標で、再現している機材を示すために記載されているという説明です。ブース内のユニット名(P2P-3000XやBJM-V11など)が実機名と似た独自の名前になっているのも、このためと考えられます。
どういう背景で生まれたのか
運営元は、米フロリダ州で運営されている「B2B Studio LLC」と規約に記載されています。創業者の経歴や開発のきっかけを語った公式な文章は、確認できた範囲では公開されていません。
海外の音楽メディアDecoded Magazineは、バック・トゥ・バックというフォーマットは長らく「同じ場所にいること」が条件だったと指摘し、B2B Studioはその条件を取り除こうとするサービスだと紹介しています。街を移った友人や、タイムゾーンの違う場所にいる仲間と、引き続き一緒にプレイできること。そして、初心者がクラブの実機に立つ前に、再現された機材で練習できること。この2つが、サービスの想定する主な使い道といえそうです。
なお、iPhone向けの観覧アプリの提供元は「Stemulator LLC」と表示されています。同名の、ステム分離アプリも同じ提供元から出ています。両者の関係について公式な説明は見つかっていないため、ここでは事実としての表示にとどめます。
日本からも使えるのか
ブラウザで動作するサービスで、サイト上に地域制限の記載は見当たりません。MacまたはWindowsのパソコンがあれば、日本からでも利用できます。
- 言語:サイト、規約、サポートは英語です。日本語での案内は確認できませんでした。
- 料金:サイト上で料金プランの記載を確認できませんでした。観覧用のiPhoneアプリは無料と表示されています。DJとして使う場合の費用や今後の課金方針は、利用前に公式サイトで確認することをおすすめします。
- アカウント:スタート画面ではゲストとして入ることもできますが、P2Pセッション(遠隔での共演)は登録アカウント向けとされています。
- 通信と個人情報:セッションはマシン同士の直接接続のため、同じ部屋の相手にはIPアドレスが見えることがあると規約で説明されています。不安な場合はVPN等を使うのが無難です。
- 楽曲の権利:規約では、セッション中に他の参加者へ曲データを送る行為は「転送」にあたり、許されるかどうかはそのファイルのライセンスや各国の法律による、とされています。公開セッションでの再生が演奏権に関わる可能性も示されており、日本で使う場合も、ご自身の音源の取り扱いは事前に確認しておくと安心です。
- 準拠法:規約はフロリダ州法に基づき、紛争は仲裁で解決する内容になっています(一定期間内であれば、オプトアウトの手続きも用意されています)。
まとめ
B2B Studioは、「操作と曲データを共有し、各自のマシンで同時に再生する」という方式で、離れた場所にいるDJ同士のバック・トゥ・バックを成立させようとするサービスです。CDJ-3000XやDJM-V10-LFといった定番機材を模したブースとrekordbox対応により、実機に近い感覚で練習できる点が魅力です。
一方で、ベータ版であること、練習用ツールと明記されていること、料金や日本語対応が不明な点など、利用前に確認すべき点も残っています。まずは公式サイトの「How it works」ページで最新の情報を確認してみてください。
出典:B2B Studio






