DJ独自の技術でありDJを表す最も象徴的なものの1つに「スクラッチ」と呼ばれる技術があります。スクラッチは日本語で「こする」という意味があり、こすると言えば宝くじのイメージが強いですが、DJが行っているスクラッチとはどのような技術なのでしょうか?
本記事ではそんな疑問を持つ人に向けて、DJが行っているスクラッチの概要と、はじめる方法、練習手順について解説していきます。
DJとは?
DJとは「Disc Jockey(ディスク・ジョッキー)」の略称です。定義は様々ですが、一般的なイメージとして定着しているクラブやイベントで音楽をかけているDJは「クラブDJ」と呼ばれます。
DJは大きく分けて次の2タイプに分類されます。
- アナログDJ
- デジタルDJ
アナログDJとは、アナログレコードを使用してプレイするDJのことです。一方、デジタルDJは、デジタル化された曲のデータを使用してプレイします。
DJがターンテーブルを使用してやっていること
DJの役割は、フロアの雰囲気に合った様々な音楽を絶えず流し続けることです。音楽を流し続けるために、DJがターンテーブルを使用してやっていることをいくつか例で挙げます。
- 音楽の再生・選曲
- ミックス
- ヘッドホンでのモニター
- スクラッチ
ミックスは楽曲の変わり目をスムーズにする作業のことで、ヘッドホンで現在流れている曲と次に流す曲を聞き比べて、テンポやボリューム、高域/中域/低域のEQ調整などを行います。
DJがやっているスクラッチとは?
スクラッチとは、ターンテーブルに載せたアナログレコードを手でこすり、音を出す技術のことです。レコードは通常、時計回りに再生されますが、それを逆回転にすることで逆再生した音を出したり、レコードを前後させることで生じるノイズを効果音としてアクセントを与えたりします。
また、ミキサーに搭載した「クロスフェーダー」というつまみを操作することで、音をカットイン・カットアウトさせながら、レコードをこすれば、キレのあるスクラッチ音を奏でることが可能です。
また、スクラッチに特化したDJのことを、ターンテーブルリストや、スクラッチャーなどと呼ぶこともあります。
スクラッチの歴史
DJの技術であるスクラッチは、1970年後半頃にヒップホップの基礎を作り上げたアーティストの1人であるGrandmaster Flash(グランドマスター・フラッシュ)氏が世に広めました。
実際にスクラッチを生み出したのは、彼の親戚であるGrand Wizard Theodore(グランド・ウィザード・セオドア)氏と言われており、彼のプレイを発展させて取り入れ、世に広めたのがグランドマスター・フラッシュ氏です。
現在では当たり前の技術ですが、スクラッチやバックスピンといったテクニックで「既存の曲から新しい音を生み出す」という発想自体が当時は画期的だったことから、多くの若者に衝撃を与えました。その後、多くのDJが研究を重ねてジャグリングやボディートリックといった表現方法を生み出し、技術を発展させていくことになります。
スクラッチをはじめとするヒップホップDJやターンテーブリズムの世界にもっと深く知りたい人は、映画「SCRATCH」というドキュメンタリーフィルムがありますので、興味のある人は是非一度観てみるといいでしょう。
スクラッチをはじめる3つの方法
1. アナログターンテーブル・DJミキサー
1番オーソドックスな方法が、DJ用のダイレクトドライブターンテーブルと、スクラッチプレイに対応しているDJミキサーを購入する方法です。
基本的に現代でもDMCなどの著名DJ大会で使用される基本セットアップは、このアナログターンテーブル+ミキサーの組み合わせで、スクラッチの基礎を習得したい、本格的にターンテーブリストの道を目指すのであれば、こちらの方法をおすすめします。
デメリットとしては、アナログレコードはデータ音源に比べて曲を手に入れるために費用がかかってしまうこと、レコード針/カートリッジなどの消耗品費の負担もあること、針飛びなど物理的なトラブルが発生することなどが挙げられます。
アナログターンテーブルを使ってデータ音源をコントロールする「DVS(Digital Vinyl System)」というアナログ+デジタルのハイブリッドスタイルも現代では一般的なため、DVSであれば上記のデメリットは最小限に抑えられます。
2. DJコントローラー
DJコントローラーとは、パソコンやスマホに保存されているデータ音源を操作して、DJプレイを行えるデバイスのことです。操作性の観点からスクラッチはレコードで行うのが理想的ですが、DJコントローラーも年々進化しており、ターンテーブルに近い操作性でコントロールできる機材も出てきています。また、アナログレコードは重量もあり場所を取るため、設置・移動が一苦労です。
設置する場所が限られている、より気軽にスクラッチも楽しみたいというのであれば、DJコントローラーではじめてみるとよいでしょう。
3. ポータブルターンテーブル
ポータブルターンテーブルは、アナログターンテーブルと、DJミキサーが1つになっている機材です。1つにまとまっている分、価格が比較的安い他、複雑な配線が必要ない、持ち運びしやすいといったメリットがあります。
一方、ポータブルターンテーブルの場合は、カートリッジの変更が基本できません。お気に入りのカートリッジを使用したい場合は普通のターンテーブルを使用する方がいいでしょう。
また基本的に単体で使用することが想定されており、他のDJ機材と接続したりする拡張性に乏しいというのもデメリットでしょう。
【入門編】スクラッチ初心者のスクラッチトリック
スクラッチは、適当にレコードとフェーダーを動かして行われているわけではなく、素早い動きの中でも意図する音が出るように意識してそれぞれの動作が行われています。スクラッチの技はそれぞれ名称がつけられており、一例を挙げると次のようなトリックがあります。
- ベイビースクラッチ
- フォワードスクラッチ
- バックワードスクラッチ
- トランスフォーマースクラッチ
- フレアスクラッチ
- クラブスクラッチ
- ドラムスクラッチ
アメリカのテクノロジー系メディアである『WIRED』のYouTubeチャンネルにアップされている、著名ターンテーブリストであるDJ ShortKut氏による、スクラッチを15のレベルに分けて解説している下記の動画は、英語にはなりますがスクラッチを体系的に理解するのに役立つ動画になっていますので、一度観てみることをおすすめします。
まとめ
今回はDJが行うスクラッチの概要と、スクラッチをはじめる方法や練習手順について解説しました。スクラッチはターンテーブルに載せたアナログレコードを手でこすり、音を出す技術のことです。
DJはスクラッチ以外にも、音楽の再生・選曲やミックスという作業がありますが、スクラッチに特化したDJも存在します。近年は手軽にスクラッチの練習をはじめられるエントリーモデルのDJコントローラーやポータブルターンテーブルもあります。
まずはこれらを活用しながら、少しずつスクラッチのスキルを磨き、DJライフを楽しんでください。